旭天鵬関の優勝に思う

 大相撲五月場所は前頭7枚目・旭天鵬(友綱部屋)の初優勝で幕を閉じました。長年の地道な精進が、37歳の古参力士に最 高の栄誉をもたらしました。すばらしい優勝だったと思います。旭天鵬関、おめでとうございます!  

 それにしても、NHKの相撲中継を聴いていると、「日本人力士の」云々というコメントが相変わらず多いのが、ちょっと耳につきます。大関稀勢の里関に対してはとりわけ「日本人力士として」という表現での期待のかけ方が、やや度が過ぎるように思える気もします。私としては、優れた力士に対しては、日本人だろうと外国人だろうと関係なく敬意を抱きます。横綱白鵬関がその一人であることは言うまでもありません。もちろん、稀勢の里関、琴奨菊関など“日本人”力士にも、日本人であるからというよりも力士としての資質の素晴らしさから、大いに期待をかけてはいますが。

 

 それはともかく、NHKの中継の「日本人力士」云々を聴くたびいつも思うのは、もし今後、在日朝鮮人力士が優勝に近づいた場合、いったいどういう言い方をするつもりなのだろう、ということです。現に力士たちの中には在日朝鮮人がいるのですから、その可能性は大いにあります。だいたい、「本名」欄に記載されているのがじつは通名であるとか、日本籍を取得して「本名」自体が日本名に変更されているとかで、在日朝鮮人であることが第三者的には判別できず、勝手に日本人力士だと思い込まれている力士だっているかもしれません。そういう力士が幕内最高優勝を果たして「栃東以来○○場所ぶりの日本人の優勝!」と謳われることはあり得ます。まあしかし、それは報道する側も力士の民族性を把握する手立てがなく、日本人と思い込まされていたのだから「仕方ない」としましょう。では、在日朝鮮人であることが第三者的にも明らかな力士についてはどうか。現に幕内には、今場所こそ怪我のため不振を極めていたものの、栃乃若関(春日野部屋)という有望力士がいて、彼は本名を李大源というれっきとした在日朝鮮人力士なのです。栃乃若関が優勝するか、少なくとも優勝争いにからむ可能性は、今後少なからずあります。そのとき、まさかNHKは栃乃若関を「日本人力士」とは呼ばないでしょうが、さりとて「外国人力士」扱いするとも思えません。NHKがイメージしている外国人力士とは、外国生まれの外国人、ということでしょうから。

 

 千秋楽の中継では、旭天鵬関が帰化して日本籍を得ている事実が頭をかすめたらしいアナウンサーが、「その意味では日本人力士同士の決定戦」などと混乱したことを口走っていました。かつて曙関や武蔵丸関の帰化後、あなたは彼らのことを「日本人」と呼んだのか、と思わず問い質したくなりました。相撲報道は、力士を「日本人」と「外国人」の二分法で論じるのを当面やめたほうがいいのではないか、と思います。どうしても「外国人力士」だ「日本人力士」だと言いたいなら、その定義を、栃乃若関のような存在もしっかり視野に入れた上で整理すべきでしょう。